第66号:ホルムズショックで日本のオーナー経営は二極化する ~数字を見ない経営者から淘汰される~
先日、ある全国紙の地方支局から、このような相談を頂きました。
そして、新聞に掲載するコラムの執筆を依頼されました。
「毎日のようにホルムズショック関連のニュースが流れています。しかし報道内容を見ていると、『政府は足りていると言っている』『現場では足りていないと言っている』『消費者は更なる物価高に直面している』という話の繰り返しです。」
「しかし、本当に知りたいのはそこではありません。」
「ホルムズショックによって、これから何が起こるのでしょうか。」
「近い将来、オーナー経営には何が起こるのでしょうか。」
「中長期的には、どのような変化が起きるのでしょうか。」
「オーナー社長は何をすべきなのでしょうか。」
「消費者はどのような行動を取るべきなのでしょうか。」
「毎日流れてくる報道は、現状説明ばかりで、未来の行動を示してくれません。」
というものでした。
私は、支局長の相談を非常に重要な問題提起だと感じました。
なぜなら、多くの報道は『今起きていること』は伝えてくれますが、
『これから、オーナー経営はどうすべきか!消費者はどうすべきか!』
までは伝えてくれないからです。
2026年2月28日に始まった米国・イスラエルによる対イラン軍事行動を発端として、
3月27日にはイラン革命防衛隊(IRGC)がホルムズ海峡封鎖を正式発表しました。
それ以降、私のもとにも、オーナー社長から直接、あるいは金融機関経由で、
「何が起こるのか分からない。」
「どこまで備えるべきなのか分からない。」
「仕入を増やすべきなのか。」
「資金を確保すべきなのか。」
「新しい調達先を探すべきなのか。」
という相談が数多く寄せられるようになりました。
私は、こうした相談を受ける中で、一つのことを強く感じています。
連日の報道では、大企業を中心とした特定の企業が、
石油製品を買い占めていることが、品不足の原因とも思える報道がなされます。
しかし、今回のホルムズショックで二極化を運命づける主要因は、企業規模ではありません。
未来を数字で考えるオーナー経営なのか、感覚で考えるオーナー経営なのかです。
そこで今回から3回にわたり、ホルムズショックによって、これから何が起こるのか。
そしてオーナー経営は何を考え、何を準備し、どのような行動を取るべきなのか。
そして、少しばかり、オーナー社長が一消費者として行動する場合、どのように行動すべきかについて、
数字をもとに検証して参りたいと思います。
最初に考えたいのは、「日本は本当に原油不足になるのでしょうか」ということです。
今回のホルムズショックを考える際、
多くのオーナー社長が最初に間違えることがあります。
それは、「原油不足から原油関連の原料が無くなる」と考えてしまうことです。
資源エネルギー庁によれば、日本の原油輸入における中東依存度は2023年度で94.7%です。
2024年度の輸入実績もUAE43.6%、サウジアラビア40.1%、クウェート6.4%、カタール4.1%となっており、
日本の輸入原油の約95%はホルムズ海峡を通過する国々に依存しています。
一方、世界全体でホルムズ海峡を通過する石油は世界消費量の約20%です。
つまり、日本のホルムズ依存度は世界平均の約4.7倍なのです。
この数字だけを見ると、日本経済は大打撃を受けるように見えます。
しかし、日本は国家備蓄約145日分、民間備蓄約90日分、
合計235日超の石油備蓄を保有しています。
日本の原油のホルムズ海峡依存率は約95%。しかし備蓄は235日分あります。
まず重要なことは、こうした数字の結果、「自社が、どうなっていくのか」を、
定量的、かつ戦略的に考え、経営判断を行うことです。
次に重要なことは、「実際に何が起こっているのか」を見定めることです。
例えば2026年4月の日本の原油輸入量は前年同月比65.9%減となり、
1962年以来の低水準となりました。
また中東からの輸入量は67.9%減少しています。
しかし一方で、国内石油製品販売量全体の減少は11.3%に留まっています。
さらにナフサ販売量は35.6%減少しました。
この数字から何が読み取れるでしょうか。
今の状態は、「原油が無くなった」のではなく、
「備蓄を取り崩しながら経済活動を維持している状態」です。
輸入量は66%減っている。
しかし販売量は11%しか減っていない。
この差を埋めているのが備蓄です。
その結果、原油を始め、あらゆるモノの価格が動いています。
未来予測とは感覚ではなく差分分析から見えてきます。
オーナー社長が見るべきは、これらの数字が何を意味するかです。
そして、自社へどのような影響が及ぶのかを計算し、
自社にどのようなことが起こるかを見極めることです。
そうしたことの結果が、オーナー社長に求められる経営判断なのです。
不足率は何%か。その不足率が、自社の原価率を何%押し上げるのか。
利益への影響率は何%か。粗利益率を何%押し下げるのか。
物流費を何%上昇させるのか。
手元資金を何ヶ月短くするのか。
未来予測とは感覚ではありません。
ここまで計算して初めて経営判断になるのです。
同じニュースを見ても、「大変だ」と考えるオーナー社長と、
「自社利益への影響率は何%か」と定量的に影響度合いを計算し、
判断するオーナー社長では、来年3月の景色は全く異なったものとなるでしょう。
他にも重要なことがあります。
それは、ウクライナ戦争勃発時、ヨーロッパは何を経験したのかです。
未来を予測する際、歴史は重要な師となってくれます。
EUは2021年時点で天然ガスの約40%をロシアに依存していました。
しかし2025年には約13%まで低下しています。
依存先変更は成功しました。
しかし、その過程でエネルギー価格は急騰し、多くの企業が苦しみました。
ところが、全ての企業が苦しくなった訳ではありませんでした。
供給網を再構築できた企業。
供給体制再構築後に収益を確保出来る事業ミックスへの転換に成功した企業。
こうした企業は市場シェアを拡大しています。
ここで重要なのは、危機は全員を不幸にするのではなく、
勝者と敗者を生み出すということです。
ホルムズショックも同じです。
原油価格上昇が問題なのではありません。
「新たな供給網を再構築するまでの間、現在の供給網との取り組みを再構築できるか」
「供給網を再構築できるまでの財務基盤があるか」
「供給体制再構築後に収益を確保出来る事業ミックスへの転換を描けるか」
「それを実現するキラー経営資源を自己認識できているか」
が問題なのです。
ホルムズショック後の日本でも、
ウクライナ戦争勃発時のヨーロッパ同様の選別が必ず起こります。
原油問題で採り上げられる問題にナフサ問題があります。
ところで、ナフサは本当に不足しているのでしょうか。
よく、注目すべきは原油そのものではなく、原油から生み出される基礎原材料と言われます。
その代表がナフサです。
ナフサはプラスチック、包装材、塗料、接着剤、合成樹脂などの原料であり、日本の石油化学産業を支える基礎資材です。
しかし、影響を受けるのはナフサだけではありません。
トルエンは塗料、インキ、接着剤、シンナーなどの原料となり、
キシレンはPETボトルやポリエステル繊維の原料となり、
ベンゼンは合成ゴムや樹脂の原料となり、
プロピレンは自動車部品や医療機器にも使用されるポリプロピレンの原料となります。
つまり、原油由来の基礎化学品に目詰まりが起これば、
製造業だけでなく建設業、運輸業、医療業、小売業まで幅広く影響が及ぶ可能性があるのです。
政府は、ナフサをはじめとする必要量は確保できていると説明しています。
しかし、オーナー経営の現場では「ナフサが足りない」「包装材が入らない」「塗料の納期が読めない」といった声も出ています。
この二つは矛盾していません。
全体量としては足りていても、必要な企業に届いていなければ現場では不足するからです。
政府の言っているとおり、供給不足ではなく目詰まりは現実的に起こっているのです。
私は金融機関経由、ないしは直接相談に来られるオーナー社長の相談を受ける中で、
「この企業は材料が無い」のではなく、「供給順位が下がっただけ」
という企業を何社も見てきました。
供給側は限られた資材を既存顧客や重要顧客へ優先的に供給します。
その結果、全国需給としては足りていても、一部の企業には届かなくなるのです。
だから経営者が見るべき数字は全国平均の数値ではありません。
全国平均の数字から、自社の在庫状況への影響度合い。
納期遅延への影響度合い。
原油由来原材料への依存度合い。
代替原材料への調達可能性。
代替調達先の確保可能性を導き出すことです。
全国平均の数字から、自社の数字に落とし込み、経営判断を行える体制づくりが重要なのである。
そのためには、ホルムズショック以降のオーナー経営では、一般社員の行う購買活動以外に、オーナー社長自らが主導する調達活動が功を奏するのです。
最後に、令和の米騒動とコロナ禍のマスク不足から学ぶべき教訓があります。
私はここに重要な原理原則があると思っています。
総需要が変わらない市場では、目詰まりによる高騰は永続しません。
買い占めが起きれば、一時的には価格は上がります。
しかし、その間に供給の多様化が起こり、元々の供給ルート回復も相まって、価格は下がっていきます。
だからこそ、明確な数値的根拠にもとづかない“漠然とした恐怖に支配された仕入”は危険なのです。
ショックの影響から来る緩衝材となりうる必要在庫は持つ。
しかし、投機的在庫は持たない。
こうした経営判断を、数字をベースに行えることが、オーナー経営にとって重要なのです。
大事なことなので、もう一度お伝えします。
私は今回のホルムズショックで二極化する主要因は、
企業規模の大小ではないと思っています。
自社のキラー経営資源を理解しているオーナー経営と、
理解していないオーナー経営です。
キラー経営資源とは、他社が簡単に真似できず、
利益を生み続ける源泉となる経営資源です。
独自技術かもしれません。
顧客基盤かもしれません。
供給網かもしれません。
人材育成システムかもしれません。
ホルムズショック後の世界では、原油の流れも変わるでしょう。
供給網も変わるでしょう。
消費者行動も変わるでしょう。
そのような中でも、変わらずに、
自社の経営基盤を盤石にしてくれるものがキラー経営資源なのです。
そして、そのキラー経営資源を活かしながら、
現在の供給先との関係を強化し、
現在の顧客との関係を強化し、
現在の収益基盤を固めて行くことが大事なのです。
これこそが、ホルムズショック後に最初に取り組むべき経営課題なのです。
しかし一方で、今の姿にしがみつくことも危険です。
歴史を振り返れば、オイルショックは日本を石油備蓄へ導きました。
ホルムズショックもまた、日本企業を新たな供給網、新たな事業構造、新たな収益モデルへ導く可能性があります。
だからこそ、現在の経営基盤を固めながらも、
自社に適正利益を及ぼす事業ミックス転換を描かなければなりません。
私は、その有力な手段の一つが、
エンジェル税制認定企業を活用した永続不滅のファミリービジネス群構築だと思っています。
こうした事業群経営こそが、激変する時代を乗り越える経営基盤になると私は考えています。
ホルムズショックは、多くのオーナー経営にとって厳しい試練になるでしょう。
しかし私は、それ以上に、自社の本当の強みを見つめ直し、次の時代へ向けた経営基盤を築く絶好の機会になるはずです。
なお、本コラムでお伝えした内容について、
さらに詳しく知りたい方は、ぜひ下記よりお問い合わせください。
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ホルムズショックが、一人でも多くのオーナー社長にとりまして、
自社に最適な事業構造変革の機会となり、
永続不滅のファミリービジネス群構築への礎となりますことを心より願って止みません!

