第60号:家族の心を暖め合える構造がないファミリービジネスは永続しない!

先日、ある地域金融機関からの紹介で、
地方にある酒蔵の事業承継後の事業構想について、ご相談を受けることになりました。

最近は、一部の地域金融機関が事業承継融資に力を入れていることもあり、
「承継後、この会社をどう伸ばしていくのか」という構想づくりまで、
ご相談をいただく機会が増えてきています。
今回の酒蔵の社長は、80歳を迎えた6代目でした。
長年にわたり、地域に根ざし、酒蔵を守り続けてこられた方です。

ご家族は、50代前半の長男と次男、そして40代後半の長女の3人。

最初に家業を手伝ったのは長男でした。
しかし、社長と折り合いが合わず、建設会社に勤めに出たまま、
現在は父親とも、家族とも疎遠な状態です。

その後、次男が自然と酒蔵に入り、現在は専務として現場を支えています。
長女も、経理を手伝いながら酒蔵に関わっています。

つまり、現場を担っているのは次男と長女。
しかし長男も、家族として存在している。

この構図です。

そして今、社長はこう考えています。

「会社の株はすべて、専務である次男に承継する」

一方で、長男夫婦はこれに反対しています。
理由はシンプルです。

「自分たちの子供に、実家の資産として株を残したい」

さらに、奥さまはこう考えています。

「3人とも自分の子供なのだから、株式は平等に分けるべき」

そして長女も、次男への承継には賛成しながらも、
「ある程度は兄弟で分けるべきではないか」と考えています。

つまり、社長と専務以外は、全員バラバラの考えです。

ここで一つ、問いを投げかけます。

一体、誰が正しいのでしょうか。

答えはシンプルです。

全員が正しいのです。

社長と専務は、経営を守る立場です。

だからこそ、意思決定を安定させるために、
100%承継を考える。

一方で長男は、家族の一員ではあるが、経営には関わっていない。

だからこそ、株を「家族の資産」として考え、
自分の子供に残したいと考える。

奥さまも同じです。
3人とも、自分が産んだ子供です。

平等に分けたいと思うのは、極めて自然な感情です。

つまり、それぞれが、それぞれの立場で、正しいことを言っている。

だからこそ、この問題は難しいのです。

どちらかが間違っているわけではない。
全員が正しい。

それでも、話はまとまらない。

なぜか。

それは、お互いの立場を分かち合う“しくみ”がないからです。

ファミリービジネスは、
家族であるがゆえに、
感情と利害が入り交じります。

この利害と感情を、そのままぶつければ、どうなるか。

御家騒動になります。

そして最悪の場合、会社は内側から崩れます。

この酒蔵も、このままでは内側から崩れます。

今回のケースでも、
経済産業省の「第4回ファミリービジネスのガバナンスの在り方に関する研究会」から、
解決の糸口を見いだしていきます。

第1回では、ファミリービジネスは日本経済の中核である一方で、
家族が関与することによるリスクに対するガバナンスが未整備であるという問題提起がなされました。

第2回では、ファミリービジネスの問題を「関係性の問題」として整理し、
“株の所有”“経営への参画”“家族と会社との関与の在り方”
を分けて考える必要性が示されました。

そして第3回では、決定的な転換が起きます。
ルールではなく、考え方を整えよう。
つまり、「ファミリービジネスの問題に正解はない。」
「だから、ルールではなく考え方を整えよう。」という前提に立ったのです。

会社はルールで動きます。
しかし、家族は感情で動きます。

だからこそ、制度だけでは解決しない。

ここが、ファミリービジネスの難しさです。

そして第4回では、その議論がさらに深まりました。

ガバナンスとは制度ではない。
構造であり、運用であり、関係性である。

つまり、
「何を決めるか」ではなく、
「どういう構造のもとで決めているか」が問題なのです。

創業期は、家族・所有・経営は一体です。

しかし、会社が成長すると、
これらは必ず分かれます。

にもかかわらず、
その分かれた構造を整理しないまま、
意思決定だけを続けてしまう。

これが、ファミリービジネスが崩れる最大の原因です。

さらに、日本のファミリービジネスには特徴があります。

外からのチェックが効きにくい。
そして、家族の価値観を言葉にしない。

「言わなくても分かるだろう」
「決めると角が立つ」

この文化が、問題を先送りにします。

しかし現実は違います。

家族であっても、立場が違えば利害が違う。

この事実から逃げた瞬間、構造は歪み始めます。

ここで、私は一つの原理原則をお伝えします。

ファミリービジネスは、人で崩れるのではありません。
構造で崩れます。

そしてもう一つ。

構造の問題に着手できれば、
ファミリービジネスはむしろ、家族の力が支えとなります。

なぜなら、構造の問題に着手出来ていれば、
お互いの立場を理解し合えるようになるからです。

家族同士、思いやれるからです。
家族同士、お互いの立場を労えるからです。

この状態になって初めて、
家族の感情は、
会社を壊すものではなく、支える力に変わります。

では、どうすればよいのか。

答えはシンプルです。

「何を決めるか」ではなく、
「何を基準に決めるか」を揃えることです。

その基準となり得るものが、キラー経営資源です。

キラー経営資源とは、自社がなぜ選ばれているのか。
自社が、どこで勝ち続ける会社なのか
その源泉を、キラー経営資源と言います。

キラー経営資源を磨き上げれば
会社は自ずと収益が上がりやすい体質へと向かいます。

このキラー経営資源磨き上げの方向性を
ファミリービジネスの進むべき方向性にすれば
すべての判断が変わります。

家族としての役割。
株主としての役割。
経営者としての役割。

すべてが、その方向性の中で整理されます。

つまり、方向性が構造をつくり、
構造が意思決定を支えるのです。

そしてキラー経営資源磨き上げの方向性を
エンジェル税制認定企業という象徴となりうるものに託せれば、

各々の家族とファミリービジネスとの関係性は
より一層、整理され、家族の支えのもと、
ファミリービジネスの永続性は保たれるのです。

なお、ここまでお読みいただいたオーナー社長の皆様の中には、
「家族とファミリービジネスとの関係性については、いろいろと決めてきたつもりだったが、何かがおかしかったかもしれない」
「同じ話をしているのに、なぜか家族と噛み合わない理由が分かった気がする」
「問題は人ではなく、構造にあったのかもしれない」
と感じられた方もおられるのではないでしょうか。

ファミリービジネスの難しさは、
“正しい人がいない”ことではなく、“全員が正しい”ことにあります。

だからこそ、ぶつかるのです。

そして、そのぶつかりは、
感情の問題のように見えて、実は構造の問題なのです。

誰がどの立場で話しているのか。
何を前提に意思決定しているのか。

ここが揃っていないままでは、
どれだけ話し合っても、結論は出ません。

しかし逆に言えば、
この構造が揃えば、ファミリービジネスは一気に安定します。

第4回の研究会が示しているのは、まさにこの点です。

ガバナンスとはルールではない。
構造であり、プロセスである。

つまり、「何を決めるか」ではなく、
「どのような構造のもとで決めるか」がすべてなのです。

そして、その構造を機能させるために不可欠なのが、会社の進む方向性です。

キラー経営資源を磨き上げ、どこで勝ち続ける会社なのかを明確にする。

その方向性の中で、
家族がファミリービジネスに求めるものは何か、
株主が担うべきものは何か、
経営者が担うべきものは何かが見えてきます。

つまり、方向性が定まることで、構造が揃い、
構造が揃うことで、意思決定が機能するという流れです。

ここまで整理されて初めて、
ファミリービジネスは、
仲の良さに依存した経営から、構造で支えられた経営へと進化していくのです。

なお、本コラムでお伝えした内容や、
エンジェル税制認定企業を活用したファミリービジネスの再設計について、
さらに詳しく知りたい方は、ぜひ下記よりお問い合わせください。

https://www.mku-consulting.com/maximuminc/

代表電話(03-5843-7228)にお電話をいただけましたら、
私のほうから折り返しご連絡もいたします。

一人でも多くのオーナー社長が、
「誰もが正しいのに噛み合わないファミリービジネス」から脱却し、
家族同士、心を暖め合える構造を手にすることで、
家族がファミリービジネスの支えとなり
ファミリービジネスが家族を幸せにする支えであり続けられますよう。