【第18回:新規事業を失敗させないために!キラー経営資源を活かした新規事業戦略!】

新規事業の選択は、多角化ビジネス構築の成否を分ける重要な問題です。
しかし、一般の経営学で示されている切り口で新規事業を選択しますと、必ず失敗します。

一般の経営学では、失敗に至りにくい新規事業選択の切り口として、「シナジー効果の有無」「自社の強みを生かせるか」「業界の市場規模・成長性」「参入障壁の高さ」「投資と回収のバランス」などがよく挙げられています。

また、進出すべき業界としては、「SaaS・DX関連」「高齢者向けサービス」「環境・再生エネルギー」「物流関連」「健康・美容関連」「金融プラットフォーム」などが推奨される傾向にあります。

逆に、避けるべき新規事業としては、「初期投資過大」「競争過多」「経営者の趣味的事業」「労働集約的」などが代表的です。

では、なぜこうした切り口で新規事業を選ぶと失敗するのでしょうか?

それは、これらの切り口が「企業とはお客様の要求を満たし収益を上げる存在である」という本質的な観点を欠いているからです。

たとえば、「シナジー効果の有無」という判断軸は、「設備が共通しているから」「顧客層が似ているから」といった、あくまで供給者側の都合であり、“お客様の要求を満たすこと”という企業の存在意義を無視しています。
これは典型的なプロダクトアウト型の思考であり、顧客中心の考え方とは真逆の発想です。

私自身、こうした“シナジー”を根拠に顧客不在のまま始めた新規事業が、結果的に失敗に至る姿を何度も見てまいりました。

たとえば、ベビーカー・チャイルドシートで著名なコンビは、単価が高く購入頻度の低い大物商品への依存から脱却するため、哺乳瓶やおしゃぶりといった日用品市場への進出を試みました。
「大物商品を売っている販売先が日用品も扱っている」「消費頻度が高く、安定収益につながる」といった論理で経営判断を行ったのではと思われます。
しかし、この事業には決定的に欠けていた視点がありました。

それが「企業とはお客様の要求を満たし収益を上げる存在である」という視点です。

その結果、この事業は採算が取れず、最終的に閉鎖に追い込まれました。

同様に、ソニーは1990年代後半、自社のハード(ウォークマンやVAIO)とソフト(音楽・映画)とのシナジーを狙い、独自音楽配信サービス「ソニー・コネクト」を展開しました。
しかし、ユーザーにとって使い勝手が悪く、楽曲の制限も多かったことから、AppleのiTunesに大敗しました。

さらに、アメリカの大手スーパー「シアーズ」は、金融と小売のシナジーを追求し、1980年代に大手証券会社ディーン・ウィッターや不動産サービスのコールドウェルバンカーを買収しました。
しかし、「お客様の要求」を無視した両事業は、たちまち赤字に転落しました。

最終的に、両事業とも売却を余儀なくされ、「シアーズ」の事例は、本業にも悪影響を及ぼした典型的なシナジー幻想の失敗事例と言えます。

このように、シナジーを優先し、顧客の声を出発点にしていない新規事業は、高い確率で淘汰されるのです。

では、「自社の強みを生かせるか」「市場の成長性」「参入障壁の高さ」などはどうでしょうか。
これらもまた供給者側の視点であり、お客様の要求という最重要な出発点が抜け落ちています。
「投資と回収のバランス」に至っては、「そんな話はお客様には関係ない」関西風に言えば「知らんがな!」と一蹴されてしまう話なのです。

企業がこの先も継続して存在するためには、「お客様の要求を満たし続ける」以外に道はありません。
したがって、新規事業の構想においても、すべての出発点は「お客様の要求」でなければならないのです。

この点で、私が一貫して提唱している「キラー経営資源の視点から新規事業を選択する」という考え方は、新規事業選定の本質を突いているのです。

この考え方を成立させるため、一点だけ前提条件があります。
それは、「経営者が定期的に顧客と直接面談を行っている仕組が整っていること」です。
営業担当からの声に頼った“お客様の要求“からは、価格勝負の利益の取れない事業しか生まれません。
そのような不完全な情報に基づいて新規事業を始めれば、既存事業の体力を奪うだけの”ドラキュラ事業“を生み出してしまうだけです。

だから、“お客様の要求“は必ず、経営者自らの直接面談から得てください。

ここで、「キラー経営資源の視点から新規事業を選択する」考え方について、簡単に述べさせていただきます。

この方法は、私のセミナーでは詳しく触れています。


まず、「縦軸=売上」「横軸=利益率」のマトリックスに、全顧客・全製品・全事業をプロットします。
このプロットにより、自社の利益にどの顧客・製品・事業が貢献しているかが一目瞭然となります。
そして、その顧客が「なぜ自社を選んでくださっているのか」を丹念に分析するのです。

その後、自社の特徴の中から、「なぜ自社を選んでくださっているのか」を磨き上げる特徴を探します。

その「自社を選ぶ理由を強化する特徴」こそが、キラー経営資源なのです。

経営者が顧客と対話を重ねる体制が整っていれば、「この事業を始めれば、今お取引いただいている大切なお客様の満足度がさらに高まる」と確信できる事業が自然と見えてまいります。
その中から、キラー経営資源の更なる強化につながる事業を選び出すのです。
それこそが、新規事業として着手すべき事業なのです。

「シナジー効果」「市場の成長性」「自社の強み」などの供給者目線で新規事業を選択していては、ほぼ確実に失敗します。
その失敗は、資本・時間・人材といった貴重な経営資源を浪費するだけでなく、企業全体に深刻なダメージを与えるのです。

だからこそ、「お客様の要求を起点とし、キラー経営資源を活かす新規事業選定」こそが、唯一の成功パターンと言えるのです。