第54号:担保は取られないが会社は取られる――企業価値担保権の真実

先日、あるオーナー社長からご相談をいただきました。

「経営指針書を作成したいのですが、ご支援いただけませんか?」

2025年に入り、
「事業性融資の推進等に関する法律」が本格的に運用されるようになって以来、
こうしたご相談が急増しています。

本来、「経営指針書を作りたい」というご相談は、極めて健全な相談と言えます。
自社の方向性を明確にし、経営を良くしたいという意思の表れだからです。

しかし、「事業性融資の推進等に関する法律」の本格以降、
少し様相が変わってきています。

同じ「経営指針書を作りたい」というご相談でも、
その背景にある“動機”が、明らかに変わってきているのです。

実際に詳しくお話を伺いますと、多くのオーナー社長が、次のようにおっしゃいます。

「金融機関から、“昨年の法改正で企業価値担保権という制度が導入された。これからは担保や保証に頼らなくても、経営指針書を作成すれば融資が受けられる時代になる”と説明を受けました。だから、経営指針書を作りたいのですが、作り方が分からなくて……」

さらに、
「融資に結びつく経営指針を作成したいのであれば、いい先生がおられますよ」
と金融機関からご紹介を受け、私のもとに来られるのです。

今回のご相談も、まさにその典型でした。

私は、この話を聞いた瞬間に、強い違和感を覚えました。

「これは危ない」――そう直感したのです。

もちろん、私は金融機関からご紹介をいただく立場でもありますので、
その金融機関を批判するつもりはありません。

しかし、あえて申し上げます。

企業価値担保権とは、「経営指針書を作れば融資が受けられる」といった、そんな単純な制度では決してありません。

むしろ逆です。

導入の段階でボタンを掛け違えれば、
後から取り返すことが極めて困難になる――
それほどまでに重く、本質的な制度なのです。

実際、私のもとに来られるオーナー社長の多くが、
この「最初の入り口」で完全にボタンを掛け違えています。

そして、そのほとんどの方が、
・「担保がいらない」
・「保証がいらない」
・「チャンスが広がる」
という“都合の良い部分”だけを信じ、
企業価値担保権の本当の意味も、リスクも理解しないまま、相談に来られるのです。

ここで、一つ問いを投げかけさせてください。

本当に――
「担保がいらない融資」などという都合の良い話が、この世に存在するのでしょうか?

では、
企業価値担保権の真実とは、一体何なのでしょうか?

では、改めて「企業価値担保権」とは何か――
ここを正確に理解しておく必要があります。

結論から申し上げます。

企業価値担保権とは、「会社の将来の稼ぐ力そのもの」を担保にする考え方です。

従来の担保は、極めて分かりやすいものでした。
土地や建物、預金といった「目に見える資産」です。

しかし、これからの時代はどうでしょうか。

・高収益だが資産を持たない会社
・人やノウハウで成り立つ会社
・ITやサービスで価値を生む会社

今まで以上に、こうした企業が増えています。

このような企業に対して、「担保がないから貸せない」というのは、本来おかしな話です。

そこで生まれたのが、
「企業の稼ぐ力=企業価値」を担保にする発想です。

では、その「稼ぐ力」とは何で判断されるのでしょうか?

それが、
・どのような顧客に
・どのような価値を提供し
・どのような仕組みで利益を生み
・それを将来どう拡大していくのか
という“構造”です。

そして、この構造を言語化したものこそが、
「経営指針書」なのです。

つまり、企業価値担保権においては、
「経営指針書=単なる計画書」ではありません。
「経営指針書=担保そのもの」なのです。

だからこそ、金融機関は「経営指針書の中身」を徹底的に見ます。
・その数字はなぜ達成できるのか
・再現性はあるのか
・誰がやっても同じ結果になるのか

これらが説明できなければ、「経営指針書」は担保として評価されないのです。

ここを理解せずに、
「経営指針書を作れば融資が受けられる」と考えること自体が、
すでに大きなボタンの掛け違いなのです。

では、この制度のもとで何が起きるのか。

ここからが、本当に重要な話です。

私は、あえて強く申し上げます。

この制度を甘く考えて使えば、取り返しのつかない事態になります。

なぜなら、担保に入っているものが、従来とはまったく違うからです。

従来は、不動産を担保に入れていれば、
返済できなければ、不動産を失って終わりです。

しかし、企業価値担保権の場合は違います。

担保は、「会社そのものの稼ぐ力=事業そのもの」です。

つまり、
・顧客
・仕組み
・人材
・収益構造
これらすべてが担保に入っています。

では、返済が滞った場合、何が起きるのか。

会社は潰されません。
その代わりに、「より返済回収を担保できる人」に会社が引き継がれます。

具体的には、
・第三者への売却
・スポンサーの導入
・経営者の交代
です。

ここで、最も重要な点をお伝えします。

失うのは会社ではありません。
失うのは「オーナー社長が持つ経営権」です。

つまり、
・会社は残る
・事業も続く
・従業員も残る

しかし、「オーナー社長であるあなただけ」が外される
可能性があるのです。

これは、極めて厳しい現実です。

しかも、企業価値担保権に応じた融資の場合、
このプロセスは「契約」に基づいて進みます。

つまり、一度制度を使えば、逃げ場はありません。

ここまで理解している経営者が、どれだけいるでしょうか。

だからこそ私は、本制度について、
「甘く考えては絶対にいけない制度」
と申し上げているのです。

では、この制度とどのように向き合えばよいのでしょうか。

結論は明確です。

経営指針書作成を“融資のための作業”で終わらせてはいけません。

むしろ、「永続的に稼ぎ続ける仕組みを創るプロセス」
に昇華させることが重要です。

企業価値担保権の本質は、
・経営指針書を提出する
・融資を受ける
で終わるものではありません。

その後、金融機関への計画の進捗報告(モニタリング)が必須となります。

つまり、
・計画通りに進んでいるのか
・利益構造は維持されているのか
・成功プロセスの再現性は担保されているのか
これを継続的に見られるのです。

ここで重要なのは、
「計画を守る」ことではなく、
「構造を磨き続ける」ことです。

私はこれを、
「再現可能な永続的繁栄の仕組み」と呼んでいます。

・キラー経営資源を特定し
・それを磨き続け
・誰がやっても利益が出る状態をつくる

この状態を作り上げることができれば、
企業価値担保権による融資は、
リスクではなく、成長の加速装置になります。

逆に、この視点がなければ、
「制度を活かせず経営権を手放す側に回る」ことになります。

だからこそ重要なのは、
「制度に合わせる」のではなく、「自社の仕組みを高める」ことなのです。

ここで、もう一つ重要な視点をお伝えします。

それは、経営指針を活用した資金調達は、
企業価値担保権だけではないということです。

経営指針書さえしっかりしていれば、
資金調達の選択肢は一気に広がります。

代表的なものを四つ挙げます。

一つ目は、エンジェル税制認定企業の設立です。

エンジェル税制は、個人投資家からの出資を促進する制度であり、
投資家側に税制メリットがあるため、資金が集まりやすいのが特徴です。

さらに、
・株式による資金調達
・返済不要
・事業成長と連動
という点で、「経営指針書」と極めて相性が良い仕組みです。

二つ目は、キラー経営資源の磨き上げにより既存事業から資金を得ることです。

キラー経営資源とは、
自社がお客様から選ばれる理由であり、利益を生み続ける源泉です。

多くの企業は売上拡大に目が向きがちですが、
重要なのは「自社がお客様から選ばれる理由」を見極めることです。

この状態を作ることができれば、
外部の資金に頼らず、既存事業から安定的に資金を生み出すことが可能になります。

三つ目は、資金を生み出す幹部人材の育成により資金を得ることです。

ここでいう幹部とは、利益を生み出せる「事業経営者」です。

社長一人で経営している限り、会社が生み出す資金には限界があります。

・任せられる幹部が育ち
・事業単位で利益が出せるようになれば
会社は複数の収益源を持つ構造に変わります。

四つ目は、「経営指針書の最適運用の仕組み」から資金を生み出すことです。

経営指針書は、作ることが目的ではなく、
自社に最適な運用を確立してこそ価値があるものです。

・目標と実績を検証する
・数値と行動を紐づける
・改善を継続する

この仕組みを回し続けることで、
・無駄なコストが削減され
・利益率が向上し
・資金が残る体質に変わります。

経営指針書とは「資金調達の資料」ではなく「資金を生み出す装置」なのです。

つまり、最適な経営指針書の作成と運用の仕組みがあれば、
無理に企業価値担保権に依存する必要はないのです。

企業価値担保権は、使い方次第で大きな武器になります。

しかし、その本質を理解せずに使えば、
経営者として最も重要な「経営権」を失うリスクを孕んでいます。

だからこそ重要なのは、制度に振り回されることではなく、
自社の経営を「再現可能な仕組み」に高めることです。

その上で、企業価値担保権だけでなく、
エンジェル税制など複数の選択肢を持ち、最適な資金調達を選ぶこと。

この視点で経営指針書に取り組めば、
資金調達は制約ではなく、未来を切り拓く手段へと変わります。

なお、当社が推奨するエンジェル税制の大恩恵をさらに詳しく知りたい方、
エンジェル税制認定企業である株式会社maximumへ投資を検討されている方、
エンジェル税制認定企業を立ち上げ、自らのビジネス拡大に活用されたいとお考えの方は、
ぜひ下記よりお問い合わせください。

https://www.mku-consulting.com/maximuminc/
代表電話(03-5843-7228)にお電話をいただけましたら、
私のほうから折り返しご連絡もいたします。

すべてのオーナー社長が、最適な資金調達のもと
永続的繁栄へと導かれますよう!